主権者教育介入問題
市と議会異なる2つの「調査報告書」

◆…京都府立西城陽高校(稲川孝幸校長)が今年2月14日に実施した「主権者教育」で、「文化パルク城陽売却問題」がテーマとして取り上げられたことに対し、城陽市が「公教育としてふさわしいのか」などとクレームを投げかけた「主権者教育介入問題」は、市議会の場で4ヵ月もの長期にわたり事実調査や議論が交わされてきたが、市側の調査への協力が得られない中ながら「学校側にこれ以上迷惑を掛けられない」との配慮から市議会は、6月19日「主権者教育への介入等に関する調査報告書」をまとめ公表、収束を図ろうとした。
◆…しかし同日城陽市は、奥田敏晴市長以下両副市長、教育長、理事ら市幹部7人が、顧問弁護士を同席させ緊急記者会見を開き、弁護士が作成した「調査報告書」を公開した上で、「圧力や抗議はなかった。事実無根の発言で職員の名誉を汚し、市の信用を失墜させたことは市長として看過できない」(奥田市長)として、「法的措置の検討が必要」(顧問弁護士)、「名誉棄損で刑事告訴の準備をしている」(荒木正人理事)と市議会に“宣戦布告”を行った。高校の主権者教育に介入した側が、介入を問題視した市議会や議員を相手に、訴訟も辞さない構えを見せたことで「主権者教育介入問題」は新たな段階に入り、複雑な様相を見せてきた。
◆…「訴訟準備」が、訴える気がさらさらないのに「訴えてやる」という単なる脅し文句なのか、それとも本気で訴訟を考えているのかは不明。脅し文句とすれば、行政をチェックし、誤りがあれば批判し、様々な考えを議論する場である議会をこれほどコケにした行為はない。城陽市、市議会共に「調査報告書」をホームページで公開している。その内容は全く異なる。こんなことは前代未聞のあり様だ。とりわけ、気に入らない議論を、あの手この手で封じようという城陽市の基本スタンスには大いに疑問を抱かざるを得ない。市政への信頼という視点から、いくつかの問題点を検証した。
◆…まず西城陽高校が実施した「主権者教育」とは、どういったものだったのか。選挙権が20歳から18歳に引き下げられる(2016年6月改正公職選挙法施行)ことを踏まえ、総務省及び文部科学省は15年9月、若者の政治参加を促すため高校教育現場における「副教材」(私たちが拓く日本の未来)を作成、全国の都道府県及び指定都市の教育委員会に対し、その「周知と必要な指導を適切に行う」(通知)よう指示を付して配布した。その中で「政治的教養を育む教育推進」や「現実の具体的な政治的事象を扱う」ことの重要性を説いている。
◆…これを受けて京都府教育委員会は、17年3月に「京都府における主権者教育の指導指針」を作成、その中で<主権者教育の視点>として「健全な民主主義社会とは、身近な地域社会の小さな討論に始まり、いろいろな段階において討論が行われ、話合いがもたれた上で、問題の解決、決定が図られる社会である。話合いにより合意形成を図ることの重要性を学ばせることが重要である」と意見の異なるテーマを取り上げ、議論することが肝要としている。
◆…こうした国の副教材、京都府の指導指針を正確に踏まえた西城陽高校は、城陽市議会の協力を得て、政治的中立性に配慮し全会派の代表6人を招き、2年生生徒との「意見交換会」という形で議員にいくつかの問いかけを行い、議員が意見を述べたり説明を行った。テーマのひとつに、事前アンケートで生徒の関心が最も高かった「文化パルク城陽売却問題」が含まれていた。
◆…このことを「熱い議論になっている問題を公教育の場で取り上げるべきなのか」(3月13日市議会予算特別委員会)と授業内容に疑義を抱いた城陽市の井関守教育長が2月20日府教委に対し、自身の見解を踏まえながら「1議員の意見」として、主権者教育のあり方を問題視する声があることを「情報提供」した。同じ日に市幹部職員は、文化パルク売却問題を何故テーマにしたのか、そのいきさつを高校の担当教諭に直接、問いただしている。
◆…城陽市教育長から「情報提供」を受け府教委高校教育課は、その日に西城陽高校から聞き取り調査を行った。こうした流れの中で、増田貴市議会議長、本城隆志活性化推進会議委員長らが2月26日、高校を訪れ、「意見交換会」実施の謝辞を伝えたところ、担当教諭と共に授業を主導した当時の副校長から、城陽市からの働きかけや、府教委からの聞き取りなどがあったことを伝えられ、来年度以降の継続は困難との心情が吐露された。
◆…こうしたことを知った本城議員は3月23日の市議会予算特別委員会で、前川喜平前文部事務次官が、名古屋市立中学校で講演を行ったことに対し、自民党議員の情報提供を受け文部省が、名古屋市教委に、その意図や録音テープの提供を求めた「圧力メール問題」を引き合いに「城陽市教委が府教委に苦情を言う」ことの不条理を「圧力と同じ」などと批判した。また土居一豊議員(城陽絆)は「重要な主権者教育に水を差す行為。教育の中立性が保たれるか疑問。軽率な行動だ」と厳しく指摘した。
◆…3月議会最終日の3月29日に、この問題に集中した市議会全員協議会が開かれた。自ら望んで出席した井関教育長に対し乾秀子議員(公明)は、「一体、どこが主権者教育になじまないというのか。具体的に説明を」と問いかけたが回答はなかった。宮園昌美議員(ネット)は「市教委や行政が、学校などに問い合わせをしたのが大きな間違い。一切すべきではない」と一喝すると、「宮園議員の言う通り」と賛同の声が広がった。
◆…そんなざっとした経過を経て、城陽市が後藤真孝顧問弁護士に依頼して作成した「調査報告書」及び市長記者会見に伴う「冒頭説明」文、さらには報道関係に対する説明などを総合すると、城陽市の主張の骨格が浮かび上がってくる。顧問弁護士が作成した「報告書」は、「抗議や圧力があったかどうかについて事実調査」を行ったとして、西城陽高校の校長から「約1時間のヒヤリング」を行った結果、「行政から圧力があったとは考えていない」旨の発言があったことから、「城陽市が圧力をかけたというのは虚偽の事実」であり「法的措置を検討する必要がある」としている。市の会見文書でも「教育長の府への連絡及び市職員の同校への問い合わせが高校への圧力であったとする一部議員の発言」は「事実と異なる」と指摘している。
◆…こうした主張には基本的な誤認識がある。「圧力があった」という議員の指摘は、事実かどうかの次元の話ではない。議員は、教育長や市幹部職員が、主権者教育で西城陽高校が文パル売却問題を取り上げたことを問題視して、府教委に「報告」したり、担当教諭に「問い合わせ」を行ったという「事実」を問題にしたのだ。「圧力の有無」は、「認識」のレベルで、「事実の有無」とは違う。「事実」はひとつだが「認識」は100人100色だ。「認識」の違いをもって「事実が違う」とは言えない。格好の事例がある。野田聖子総務相の事務所が、同相の知人である仮想通過業者を金融庁担当職員に引き合わせことに対し、野党やマスコミは「圧力をかけた」と問題視している。これに対し野田総務相は「圧力ではない」と否定している。「金融庁担当職員に業者を引き合わせた」ことが事実であって、それを「圧力」とみるのか「圧力でない」とみるのか、それは考えの違いにすぎない。【藤本博】