主権者教育介入問題
複雑にからまった糸をほぐしてみた

◆…この連載記事を読んだ読者から、「訴えるとか、訴えへんとか、何が問題になってるのかよう分からん」という声をしばしば耳にする。確かに分かりにくい。理由はいくつかある。①18歳選挙権付与を機に生み出された「主権者教育」の考え方が、これまでの「政治」「宗教」をタブー視した公教育とは異なり、むしろ「政治的事象を扱う」(国の副教材)ことや「身近かな問題で討論」(京都府教委指針)することの重要性を推奨する新たな概念であること②事の顛末(てんまつ)を、市が顧問弁護士に作成させた「報告書」と議会が作成した「報告書」の記述が異なること③市職員4人が協議した内容で、2通の公文書が存在し、その内容が全く異なること④当事者の1人が、自らの非を認め、反省、謝罪を行っているのに、市長ら幹部職員が記者会見で「市の対応に誤りはない」として、名誉棄損で刑事告訴する準備をしていると発表したーそんなややこしい動きが複雑にからまって、尋常ならざる事態を誰も問題を収拾する者がいないからだと思う。
◆…兎にも角にも、今回のケースで基本的な事実関係を、なるべく簡潔にまとめてみた。京都府立西城陽高校(稲川孝幸校長)が今年2月、城陽市議6人を学校に招き、2年生の授業で「主権者教育」を実施した。ここで、テーマのひとつに「文化パルク城陽売却問題」が取り上げられたことに対し、城陽市は「議論のある問題を公教育の場で取り上げるのはけしからん」との考えから府教委に「報告」したり、幹部職員が高校の担当教諭に連絡してテーマに取り上げた経過を「事実確認」した。一連の動きを受けて学校は「次回以降の実施が困難になった」ことを市議会議長らに伝えた。そのことで議会は、議員が「圧力と同じ」などと批判し、さらに調査を重ね「城陽市が高校の授業に介入した」と断じた。これに対し城陽市は、顧問弁護士に調査を依頼し、「校長は圧力とは考えてないから、圧力という事実はなかった」との報告書を作成、市と議会が双方のホームページで「報告書」を公開しているもの。
◆…ざっとこんな流れなのだが、何が問題なのかと言えば、一点は「不都合な情報を隠す」という日本の中央から地方まで一貫した役所の体質だ。自衛隊のPKO派遣日報、森友学園、家計学園等々の公文書を破棄、隠ぺい、改ざんの上、ウソを平気で重ねる。ウソをついて権力者を守れば守るほど、自分が守られる。反旗を翻せばこっぴどく仕返しをされる。何がそうさせるのか、上層部ほどひどくなる役人の五臓六腑に沁みついた「自己保身」しかない。「すべて公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)など一体どこの国の憲法なのかと思えるほどだ。
◆…今回のケースで言えば、城陽市にとって「文化パルク城陽売却問題」は、最も触れてほしくない「不都合な情報」なのだ。学校や道路など「行政財産」の売却を禁じた地方自治法に違反している疑いがあることから住民訴訟も提起されている。「解釈の問題だ」(2017年12月25日本会議の答弁)と市は突っぱねたが、全国初の訴訟が注目を集めている。今もって城陽市は、昨年12月1日号の「広報じょよう」で、「毎年度の市民負担は減少します」(実際には100億円の膨大な借金を背負い、25年間返済し続けねばならない)など、まやかしの説明を一方的に行っただけで、議会の多数や請願市民らが求める「ていねいな説明」は一切ない。だからこそ、府立西城陽高校の主権者教育で、この問題がテーマになったことに過剰に反応したというのが真相だ。
◆…加えて重要な問題は、いかなる勢力の支配も介入も許されない「教育の独立性」に関わる懸念だ。教育基本法第10条に「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負う」とある。文部科学省はこの『直接責任を負う』について、「国民の意思と教育の間にいかなる意思も介入してはならないのである」と解説している。つまり、西城陽高校が行った授業の内容に対し、城陽市の教育長が「公教育の在り方としてけしからん」と議会で発言したり、「こんなことが行われている」と授業内容を批判した意見を府教委に報告したり、幹部職員が授業を行った教師に直接、文パル売却問題を取り上げた経過を問いただすなどの行為は、明らかに「城陽市の意思」を示し、教育に「介入」したものだ。
◆…だが城陽市の上層部には、主権者教育に対する基本的な認識の誤りを認め、反省と謝罪を表明している一部職員らを除いてそうした問題意識はない。それどころか「市の対応に誤りはなかった」(奥田敏晴市長・6月19日記者会見)として、むしろ「問い合わせするのは当たり前のこと」(同)とし、西城陽高校が文パル売却問題を取り上げたことについて「事前に内容を知ってもらったほうが良かったのでは」(同)と注文をつけたほど。
◆…市議会で「圧力と同じ」(今年3月23日・予算特別委員会)などと追及したために、「職員の名誉を汚し、市の信用を失墜させた」(奥田敏晴市長・記者会見)として、「謝罪すべき」「刑事告訴する準備をしている」などと市から「圧力」を受けている本城隆志議員(無会派)は、市からの訴訟に備え、複数の弁護士に実情を説明し、相談した。すると、ひとりの弁護士は「城陽市による授業内容の問い合わせは、教育基本法が禁じる、教育に対する不当な支配に該当する」との見解が示されたという。さらには、城陽市が行った緊急記者会見や顧問弁護士の「調査報告書」のホームページ掲載など一連の行為についても、「市議会ないし議員に圧力をかけるかのような市長の記者会見、調査報告結果には問題がある」との指摘があった。
◆…さて今回は本来、いくつかのややこしい問題がからみ合う中で、混迷の1要因となっている「1事実に内容の異なる2公文書」の問題をひも解く予定だったが、このまま進めば紙面からはみ出してしまいかねないので次回にゆずることにした。これがまた、実に摩訶不思議かつ支離滅裂な話なのだ…。【藤本博】