【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】

◆岩間山を渡るタカ、舞うトンボ

岩間寺の案内図の前で(左:松井優樹くん、右:筆者)

10月初旬、中川宗孝先生とその愛弟子・松井優樹くんと一緒に岩間山へでかけました。岩間山は宇治市と大津市の境付近にあり、京都府でタカの渡りが観察できる場所として有名です。かつては中川先生もここで調査をされていたと、当時の様子を移動中の車の中でうかがいました。
途中、道に迷いながらもなんとか岩間山の観察ポイントに到着。そこには、左手に比叡山から奥に連なる比良山系、中央に湖面の輝く琵琶湖、右手に大きくそびえ立つ伊吹山が一望できる光景が広がっていました。天気は快晴。ときおり心地よい秋風が吹くなか、北東から南西方向に慌ただしく渡ってゆくノスリ、ツミ、ハイタカなどのタカの仲間。その様子を日本野鳥の会京都支部のメンバーが調査されていましたが、はるか上空を飛翔するタカの姿を追うのは至難の業です。
タカを探すのをあきらめ、ふと周辺に視線を移すと、草原をゆったりと舞うトンボの姿がありました。ついつい興味は遠くのタカから目の前を舞うトンボへ…
今回は、秋の風物詩といえるアカトンボを取り上げ、山城地方でもよく観察できる種類をご紹介したいと思います。

◆夕焼け小焼けの赤とんぼ~♪

「虫は苦手だけどトンボは好き」とおっしゃる方も多いと思います。百貨店や雑貨店にあるアクセサリーコーナーをのぞいてみると、トンボをモチーフとしたブローチやイヤリングがいくつも目に留まります。案外トンボにはファンが多いのかもしれませんね。
アカトンボは古くから普通に見られる身近な昆虫でもあり、有名な歌である「赤とんぼ」が浮かんだ方も多いことでしょう。アカトンボとはどんなトンボでしょうか。じつはアカトンボという名の虫はおらず、トンボ科アカネ属に含まれるトンボを総称して呼ぶことが多いとのこと。また、秋になると平地に群れをなすアキアカネのみを指すこともあるのだとか。とは言ってもアキアカネと他のアカネ属のトンボを区別するのは慣れないと難しいです。

ほとんどのアカトンボは秋に産卵して卵で越冬します。そして翌春に孵化して初夏に羽化します。卵は、冬の間にいったん温度が下がり、その後に温度が上昇すると、一斉に孵化します。気温が高いままでは孵化しません。

◆アキアカネ

アカトンボを代表する「アキアカネ」

アキアカネとの名前から秋の代表格のように思われますが、夏の6・7月には成虫に羽化しています。しかし、その姿はなかなか目につきません。それは山上などの標高の高いところで夏を過ごしているから。比叡山の山頂周辺では、夏にアキアカネを見かけます。やがて秋になり気温が下がってくると、アキアカネは平地へと下降し、ときには水田で大群をなすこともあります。
かつては最も普通に見られるアカトンボでしたが、近ごろは日本中の各地で激減しています。秋になってもアキアカネの姿が見られないところも多くなってきたようです。

◆マユタテアカネ

顔にブタの鼻のような模様がある「マユタテアカネ」

アカトンボの中ではやや細身で、かわいらしいトンボです。顔に眉のような黒い斑紋がついていることから、「眉立」と呼ばれています。私には眉というよりもブタの鼻のように見えますが。
アカトンボを捕まえたら、まずは顔の正面をチェック。そこにブタの鼻のような模様があれば、マユタテアカネの可能性が高いです。ただし、眉の斑紋があるトンボは他にもいるので要注意です。植物が豊富に生えた池や緩やかに流れる水路で見かけます。

◆コノシメトンボ

翅の先に黒い斑紋のある「コノシメトンボ」

コノシメトンボの特徴は、翅の先端に褐色の斑紋があること。止まっていると、この斑紋がよく目立ちます。ノシメとは「熨斗目」と書き、江戸時代の武士の礼服の模様に因んでいるそうです。同じように翅の先端に黒い斑紋がある「ノシメトンボ」もいるのでご注意を。コノシメより一回り大きいです。

◆ミヤマアカネ

「深山茜」と書きますが、実際は深い山ではなく里山に生息しています。河川敷や水田を流れる細い水路などで幼虫が育ちます。多くのアカトンボは溜め池のような水の流れのない水辺を好むのですが、ミヤマアカネは小川のような流水を好みます。同じような環境を好むマユタテアカネと一緒に見られることもあります。翅の先端からやや内側に黒いバンドがあり、飛んでいるときに車輪が回っているように見えることから「車トンボ」と呼ばれることも。
私はミヤマアカネが大好きなのですが(個人的には最も美しいアカトンボだと思っています)、残念なことに最近は個体数

が減少しており、京都府レッドデータブックの「準絶滅危惧種」に指定されています。水路のコンクリート化が進んだ影響で、このトンボの好む緩やかな流れの水路が少なくなっていることが原因と考えられています。ミヤマアカネは「宇治田原町の野生生物―レッドデータブック」にも紹介されていますので、ぜひご覧ください(ホームページでも閲覧できます)。

◆秋はアカトンボ観察に最適

アカトンボは、樹木の枝先にじっととまり、目の前に小さな虫が飛んでくると飛び立ち、すぐに元の場所に戻る、といった動作を繰り返しています。忙しそうに動いてくれるので見ていて飽きません。

翅の先から少し内側に大きなバンドのある「ミヤマアカネ」

アカトンボを見分けるコツは捕まえてじっくりと観察すること。顔、胸、翅の模様をチェックして昆虫図鑑とにらめっこするのがお薦めです。
秋が深まるこれからの季節、山城地方で観察できるアカトンボを求めて、フィールドへ出かけてはいかがでしょうか。可憐なミヤマアカネにも出会えるかもしれませんよ。