【脇坂英弥(環境生物研究会・巨椋野外鳥類研究会)】

◆翼爪をもつ鳥たち

近づく外敵に対して威嚇をするケリの親鳥。カラス・トビ・人にも恐れることなく、ヒナや卵を懸命に守ります。丸印の部分に小さな翼爪がありますが、野外のケリから爪を確認するのは至難の業です。

「ケリの翼爪が雌雄を見分けるポイントになるのではないか」
こうして始まった中川宗孝先生とのケリの生態研究。まずは翼の爪について紹介しましょう。
鳥の翼に爪が生えていると聞かされても、頭に思い浮かべるのは難しいのではないでしょうか。鳥の祖先とも考えられている始祖鳥には、翼に湾曲した3本の指がついていますが、きっとそんな姿をイメージするかもしれません。ただ始祖鳥は現在の鳥とは随分と違っています。では、現生する鳥ではどうでしょうか。
鋭い翼爪をもつことで有名なのがオーストラリアに生息するズグロトサカゲリ。2013年にNHKの「ダーウィンが来た」という番組の中で「超攻撃的!ナゾの覆面鳥」として紹介されたこともあり、ご存知の方も多いと思います。番組では、黄色く長い爪をもった親鳥が、ヒナや卵を守るために近くを通る人に対して攻撃する様子が紹介されていました。なかなか迫力のある鳥ですね。もちろん実際に爪を人に刺すような恐ろしいことはしませんので、安心してください。

1億5000万年前に生きていた始祖鳥(化石のレプリカ)。羽毛をまとっていたことから鳥の祖先とも考えられていますが、翼に湾曲した指が3本ついていたり口内に歯がついていたりと、現在の鳥の姿とは随分違っています。

攻撃以外に爪を利用する鳥もいます。南米アマゾンの奥地に生息しているツメバケイです。飛ぶことはほとんどなく樹上生活に適応した鳥ですが、面白いことにヒナだけが翼に2本の爪をもっています。外敵が近づくと、ヒナは巣から飛び出し、爪を使いながら木を登ったり水辺にダイビングしたりして避難するのだとか。ちなみに水辺に逃げた後は、巣に戻るために爪を使って木登りをするそうです。逃げるのに便利なこの爪もヒナが大きくなると抜け落ちてしまいます。かわった鳥ですね。

では主人公であるケリはどうでしょうか。期待させてしまいましたが、じつはケリの爪の長さは1㌢にも満たない短いもので、野外にいるケリを双眼鏡でじっくり観察しても爪を確認するのは至難の業です。これを武器にヒナや卵を襲ってくる外敵に一撃を食わらせるのなら勇敢でカッコいいのですが、長年ケリを観察していても、これを武器に戦っている姿を見たことがありません。

◆外敵から丸見えの巣

今年の春に中川宗孝先生との調査中に発見したケリの巣(筆者)。水田の地面にある巣は丸見え状態。卵は約1か月で孵化しますが、その間ペアが交替しながら抱卵します。

水田というオープンな土地に営巣するケリ。当然、よだれをダラダラ垂らしながらヒナや卵を狙ってくるカラスやトビ・イタチ・タヌキ・ヘビなどの外敵には丸見えの状態です。樹洞やブッシュなどに巣を隠すことが多い鳥の中で、ケリはあえて巣をさらけだして自分の視野をきちんと確保する作戦をとっています。そして外敵をいち早く見つけ出し、「ケーケーケー」と豪快に響く声を発しながら、それを追い払います。
トビやカラスなどのように上空から迫る外敵に対しては、上昇と下降のアクロバットな飛翔を繰り返しながら猛アタックします。アタックとは言っても外敵に体当たりするのではなく、ぶつかるギリギリのところで身をひるがえす軽快な飛翔で、外敵が逃げ去るまで追い回します。
では、地上から狙ってくる外敵に対しては、どう応戦するのでしょうか。これは中川先生の仮説ですが、ケリは小さな翼爪を威嚇に使っているのではないかとおっしゃっていました。その証拠に私たちが調査のために巣に使づくと、親鳥は正面を向いて肩をいからせたポーズをとります(ケリにとっては調査者も外敵なのかもしれません)。このとき、こちらに爪を突き出す威圧的な態度をとっているようにも見えます。
ケリに近い仲間のコチドリが「擬傷(ぎしょう)」という、外敵に背中を見せて翼をだらりと下げ、ケガをしたふりをする行動をとります。これにより外敵の注意をヒナや卵から親鳥に向けさせる効果があります。もちろんケリもこの行動をとることがあります。もしかしたら、ケリは外敵の種類や卵・ヒナの成長段階に応じて、擬傷と威嚇を使い分けているのかもしれませんね。
次回はいよいよケリの雌雄判別についてご紹介したいと思います。(つづく)