【中川宗孝(環境生物研究会・城陽環境パートナーシップ会議)】
桜の季節を迎えたフィールドは、南方の越冬地から北の繁殖地に向かう旅鳥たちと、もうすぐ見られなくなるカモやツグミたち冬鳥に、一年中見られる留鳥たちも繁殖モードに入って野鳥たちから目が離せない毎日です。天敵を避けて厳冬期に産卵するアカガエルのオタマジャクシも、冬眠から覚めたアカハライモリの餌となって、イモリもまたアオサギのおやつとなり、水辺では甲羅干しのスッポンに、カメたちも魚の死がいに群がってがぜんフィールドノートも賑わいだしました。
梅から桜の季節、ゆかりのエコキッズたちの卒業・進学の新学期を迎え、新天地でも個々の天賦の才を活かして元気に頑張ってくれることを願ってエールを贈っています。今にして、多感な少年期に素晴らしい先生方とめぐり合い、長じても心から尊敬できる指導者に恵まれて、多大な影響を受けた人生の師との出会いを天に感謝しています。別れ月から出会い月へ、それぞれが生涯の友や恩師との出会いで楽しい学園生活の門出となることを祈っています。
今年も規則正しい自然界のサイクルは、ナチュラリストのフィールド歳時記・春の調べも最終章を飾っています。平成最後の春のフィールド通信は、大恩ある人たちを偲んで歴史を振り返る機会としたふるさとの生き物最新情報です。

◎フィールド歳時記・ナチュラリストのルーツ

 春を告げる自然界の使者には、ヒバリやウグイスのさえずりにツバメの飛来、モンシロチョウにテントウムシ、アマガエルやトカゲ・ヘビなどが梅と桜の開花季節の指標生物として記録されてきました。四季折々に彩られるニッポンの自然を背景に、生き物たちの生活史を記した歳時記に学ぶことの多いナチュラリストは、フィールドノートの記録から「生き物暦・カレンダー」を作成しています。
当紙面でも毎年報告してきたウグイスの初音にツバメの飛来日も、30余年を経た現在は多くの協力者から各地の詳細情報が寄せられています。野鳥や野生動物の生息は、豊かな自然環境を表すバロメーターになりますが、生き物カレンダーは気象や生息環境など地球規模の変化を推測する要素にもなり、ローカルナチュラリストならではの郷土の環境資料と自負しています。
春告げ鳥の代表種・ウグイス(写真①山中十郎氏撮影・以下同)は、冬場の笹鳴きと呼ばれる「ジャッジャ」から、繁殖の恋歌「ホーホケキョ」の第一声を初音と呼んでいます。正月明けからさえずりの練習を始めたオスは、徐々に上手になって城陽市の木津川河川敷では例年3月1日です。そして今年は、木津川で2月の15日、宇治田原町では2月17日と例年より2週間早く、城陽市の青谷梅林では1月末の記録が寄せられましたが、以後確認されず参考記録としています。かつてはヒバリのさえずりも春の到来を告げる風物詩でしたが、もう長らく正月前から記録されるようになり、春告げ鳥の看板を外しています。
憧れの北海道で大学生活のスタートをきった筆者は、春告魚がニシンであることを知りました。また生物学の授業で、学舎に隣接する演習林にカッコウ(写真②)が飛来するのが毎年5月17日と聞きました。くしくも19歳の誕生日と重なり、授業の合間に散策したのですが、やはりそんなできすぎたストーリーは叶いませんでした。それでも、3日後?にカッコウの声を聞くや、その姿を求めて演習林に踏み入り、現在に至るフィールド探査が始まりました。
ほどなく間近でカッコウを観察でき、散策フィールドとなった演習林では、当時から幻とされていたニホンザリガニを発見し、植物ではサルメンエビネなどの希少ランの発見が植物学者の三上日出夫博士に師事するきっかけとなりました。野外調査のノウハウを学び、動植物の知識を得られたことでネィチャーガイドのツアーコンダクターとなり、現在の妻ともめぐり逢う機会となって恩師の遺影に感謝の合掌を続けています。
ラッキーバードのカッコウの思い出と共に、北海道では現在の爬虫類派ナチュラリストの原点となった出会いがありました。札幌に程近い空沼岳で、美しい真っ赤なヘビが現れてしばし見入ったものでした。それが日本一美しいと称されるジムグリ(写真③)で、やはり珍蛇のタカチホヘビ・シロマダラ共々南山城地方での生息を実証したナチュラリストゆかりのお宝生物です。
そして、道東の然別湖の小さな島にボートで渡った時には、1mほどの白蛇に出会っています。さほど神々しく感じなかったのは、目が赤い完全アルビノではなく、全体がくすんだ灰色だったからでしょうか。今年も爬虫類シーズンが到来し、スッポンも甲羅干しで挑発しています。(写真④) 令和の新時代、日本一の大スッポンに黄金のスッポンの再来、そしておめでたい紅白のお宝珍蛇の発見を夢見ています。
ウグイスの初音前線から約半月、夏鳥のツバメの渡来前線が始まります。こちらは例年3月16日ですが、もう30年も前、地元城陽市富野の新聞配達のおばあさんから情報をもらい、半信半疑でいたところ、以後5年間で2日間の誤差という驚きの結果に脱帽したものでした。家の軒先の観察と、河川や農耕地の記録とは若干の違いはありますが、今年は3月9日に松井優樹君が宇治市で、15日に鳥垣咲子さんが城陽市の古川で確認したとの報告がありました。筆者はその間の10日から13日に、木津川河川敷に宇治田原町・和束町、京田辺市で確認しています、
こちらのルーツは、筆者が城陽中学校に入学した1964年の創立10周年記念のノートに、「鳥類各部の名称と日本の鳥の色々」と題して、図書館から持ち出した鳥類図鑑を授業中にせっせと描き写したことに始まります。(写真⑤⑥) ツバメの渡来前線の存在を知った13歳の時の好奇心が、半世紀を経た現在に活かされてきました。多大な影響を受けた鳥類図鑑の著者の小林桂助先生は、兵庫県立・人と自然の博物館でナチュラリストの草分けとしてその功績と所蔵品の展示コーナーで紹介されています。生前の平成7年には、オオタカの食害問題で兵庫県に招聘された折にお会いする機会があり、持参したノートにたいそう感激され、激励のサインをいただいています。
鳥をめぐる人のつながりが、さらなるフィールドの夢を膨らませてくれます。城陽市立富野小学校・生き物クラブ最終日の野鳥観察、巣立ちゆく卒業生との記念写真(写真⑦)を引っ張り出して自慢できる日が来ることを願っています。桜の花に止まる旅鳥のニュウナイスズメ(写真⑧)は、桜前線と共に北上してゆきます。日本で冬越しをしたツグミ(写真⑨)が、繁殖地のシベリアへと旅立つのももうすぐのことです。ツバメ前線の初認日に対して、ツグミやカモたち冬鳥の終認日の記録にも留意し、去り行く鳥たちを見送っています。この季節、お世話になった方々の恩を忘れることなく、鬼籍に入られた人たちの追善供養とご存命の先生方の長寿・健康祈願で新たな年度を迎えています。合掌!

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