ふたつの民族が対立して住む常夏の島国
フィジー諸島 かけ足見聞記
高橋内科医院院長 高橋 権也

第4回 日本の茶道に似たカバの儀式 フィジーで受ける最高のもてなしです


 フィジーを訪れる観光客がどこかで必ず受ける儀式です。私たちもこのカバの儀式で村人たちの歓迎を受けました。この儀式を村長さんから受けるとその村に入るパスポートをもらったことになるのだそうです。
 カバ(英語)とは南太平洋に自生する胡椒科の木のことです。乾燥させたカバの木の根を水の中に漬けて両手で搾り出すとエキスが流れ出て、泥水のような液になります。この液を小さなお椀から飲み干すのです。
 カバの儀式で必ず用いられるのが直径60pぐらいのタノアと呼ばれる木の鉢です。鉢の底には必ず4本の足がついています。その鉢の中に5リットル程度の水をいれて、カバのエキスを作ります。
 実際にはカバの根を使うのではなく、カバの根を粉末にしたものを小さな布袋に入れて水の中で揉み出します。粉末のカバは市販されていますのでそれを使うと簡単に抽出できます。

 
 カバの儀式では3名の男性がホスト役をします。女性は参加できません。一人はカバの汁を作る人、もう一人は小さなココナッツの殻から作ったお椀を使ってカバの汁をお客様まで運ぶ人です。2人に指示を与えて儀式全体を取り仕切る人が最もえらい人です。儀式の最初は長いお祈りのような口上から始まります。お客さんの中から必ず主客が選ばれます。最初に主客がカバの汁を飲みます。飲み方にも作法があります。自分の前にカバの汁を差し出されると、まず1回手をたたき、「ブラ」と言って右手でお椀を受け取ります。その後、お目付け役の人が1回手をたたくのを待って、一口で飲み干します。飲み終わったら3回手をたたいて「ビナカ」と礼を述べて終了です。空のお椀は必ずホストに手渡しします。地面に置かないのは清潔を保つためです。
 参加者全員にカバの汁が一巡したら、何度でも繰り返されます。ホスト役の3人をはじめ周囲の男性たちはタノアに残っているカバの汁を行事の間ずっと飲み続けていました。
 カバの汁を口に含むとわずかに舌がシビレます。山椒の実を噛んだときのシビレに似ています。カバのエキスには沈静作用と催眠作用があります。フィジーのカバは麻薬の作用はありません。味はほとんどなく、決しておいしいものではありません。表現が悪いのですが、カルキの多い水道水に石灰が混入したようです。使われる水は粗末なバケツで運ばれてきますので、水の出所が不安です。これを飲み干すには勇気が要ります。
 私はフィジー滞在中に3回カバの儀式を経験しました。目立った副作用はありませんでした。3回目になると飲み慣れましたが、たくさん飲みたいとは思いません。
 カバは数千年も前からメラネシア人によって、いろいろな用途に使われてきました。しかしメラネシア人が多く住むパプアニューギニアやソロモン諸島では、カバの儀式は経験しませんでした。これらの国では、儀式ではなく、コーヒーを飲むような感覚でカバを飲む習慣があるそうです。お客をもてなす儀式化した日本の茶の湯と、日常飲む緑茶の関係に似ています。 (つづく)
【写真は長老たちによって行われるカバの儀式】

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