ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No1
 2002FIFA日韓共催ワールドカップがブラジルの優勝で幕を閉じてから、まだ2週間そこそこしか経っていませんが、世間では、もはや遠い昔のコトの様に語られることが多くなっています。というか、語られなくもなりました。

 韓国まで三位決定戦を見に行った私にとってもワールドカップは、世間と同じ様に遠い昔のコトと感じられる時がありながらも、逆に、まったく昨日のコトの様に感じるときもあったりします。そして、暇さえあれば、あの一ヶ月の事を色々に思い出したり懐かしがったりしています。それは今日に至るまで全く変わる事がありません。そこであの一ヶ月を自分なりの文章で締めくくってみたいと思い、パソコンに向かいました。
 読んで下さった方々にとっても遠い昔になってしまったであろうあの一ヶ月を、この文章が
思い出すよすがになり、また、ワールドカップで活躍した選手が多数出場するにもかかわらず、あまり顧みられないJリーグを見に行こうかと思うキッカケになれば幸いです。それでは最後までのお付き合いよろしくお願いします。


 さて、私が2002日韓共催FIFAワールドカップTMのチケットを手に入れるためにしたコト。


@一次販売=親と祖母の名前まで使用して4口応募。

A即席麺1ダースで1口のチケットプレゼントに2口応募。

B二次販売=親と祖母の名前に加えて、仕事が忙しいため、チケットを手に入れても確実に観戦できるかどうかわからない弟の名前まで使用して5口応募。


 ――結果、@およびBはまったくの音沙汰なし、要するにハズレ。Aは、A賞であるチケットはしっかりハズれたけれど、B賞のボタンを押すとフランス代表で背番号10を背負う押しも押されぬスーパースター“ジダン”が足を踏み鳴らしながら、要するに地団駄を踏みながら3分経った事 (お湯を入れてから即席麺が出来るまでの時間) を伝える人形、その名も「ジダンが地団駄人形」が当たった…。


 一応、家宝になっている……。


 かくして「あ〜あ、チケット、なんにも当たらんかったな〜」「有名選手がどっと押し寄せて来んのに、見に行く事も出来ないんだな〜」「くやしいな〜」とぶつくさ言いながら、家宝のボタンを押しては 「今大会でも活躍するだろうな〜」 と、その時は思っていたスーパースターに地団駄させながらテレビを見ていると、「日本のチケットはあっという間に売り切れましたが、共催国である韓国では、大量のチケットが余っています」との驚くべきニュースが流れた。


 「えっ、なんで」と思ったが、インターネットで調べてみると、どうやら事実みたく、韓国代表の試合や韓国や日本のお隣りで、今回初出場を決めた中国代表が出場する試合のチケットは完売しているが、その他の試合、それもポルトガル代表の試合、ブラジル代表の試合、スペイン代表の試合、パラグアイ代表の試合などなど…テレビで見たコトある有名選手が続々出場する試合のチケットが「なんでこんなに」と思う程に余っている。


 前述の様に、日本での試合に応募が殺到したためか、運が信じられないほどに悪かったのか、家宝がチケットゲット運までをも全て持っていってしまったのかどうかはよく判らないが、結局一試合のチケットもゲット出来なかった私には、パソコンの画面に、これでもか、これでもかと表示されている『FIFAワールドカップTM』オフィシャルホームページの空席情報が疑がわしいものとして、何か信じられないもののように映っていた…。


 それでも、眺めていると、さすがに開幕戦は完売だが、我が家で3分毎に地団駄踏み鳴らしているヤツが出場するフランス代表の試合までもが、パスポートさえ持っていれば、余裕で購入できる事が判った。


 笑いが込み上げてきた…。


 そう言えば、この『チケット』と『ジダンが地団駄人形』をプレゼントするキャンペーンを打った即席麺のテレビコマーシャルは、麺を食べてチケットを当てたのはいいけれど、それは自分が出場する試合のチケットだったため「見に行けないじゃない」と嘆きながら地団するジダンというものだった。


「ジダンよりも俺の方がついてるみたいだ…」とおバカに思った。


 背後で踏み鳴らされる地団駄がいつもより大きく響いているように思ったのは、もちろん気のせいだろう…。


 ジダンが怪我をして開幕戦に出られなくなったというニュースが流れたのはそれから、2、3日経った頃であったろうか。


 波乱に満ちたたワールドカップの予感を、今思えば、感じていた気がする…のかな〜。


 その開幕戦は、車の中、ラジオで聞いていた。ジダン率いる筈だったフランス代表は、日本代表がヨーロッパ遠征した時、こてんぱんにやられた相手、セネガル代表と戦っていた。セネガル代表と日本代表が対戦した試合の中継は、私が住んでいるアパートではちゃんと映らないTV局が行っていた。ちゃんと映らないから、砂嵐状態になっているTVの中にかすかに映る映像と、比較的きれいに入る音声だけでも、セネガルチームの強さはよく判ったように思う。


 「コンフェデレーションカップで準決勝まで行った筈やのに、日本代表ってこんなに弱かったんかな〜」と思わせる程に、セネガルは一方的に日本代表を攻めていた。日本代表が相手をつぶしても、こぼれ玉は必ずセネガル代表が奪っていた。特に背番号11の選手は、倒されてもすぐに立ち上がり、前に向かって走っていた。日本代表とは、なんというか『思想が違う』としかいいようのないチームだと感じた。よく言われる、組織がなんたらとか、司令塔が誰でとか、そんなんじゃなくて、ただ、みんなで“ワーッ”と攻めて、選手という選手、最終ラインにいるからDFである筈の選手までが日本選手をドリブルで抜こうとしていた。そんでもって、足が速くてドリブルが上手くて、倒れてもすぐに立ち上がる背番号11の選手、ディウフはフリーキックで、直接ゴールを決めてみせた…。


 「こんなチームがあって、こんな選手がいるんだ」 と、深夜、映りが悪い、砂嵐状態のテレビの中で唖然としながら見ていたチームは、ラジオの向こうのソウルでもフランス代表に勝ってしまった。あっという間にセネガルチームのファンになった。インターネットでセネガルの事を調べたりした。こういう、今まで知らなかった国の事を調べたくなったりするのは、ワールドカップならではと思う。シドニーオリンピックとか、ソルトレイクオリンピックでよその国の誰々が活躍しても、その人が住んでいる国には別に興味を持たなかった。そういえばオリンピックで活躍する選手は、私が見ている競技だけかもしれないけれど、アメリカとか中国とか、メジャーと言ったらその他の国には悪いかもしれないけれど、何処かしらで、なんやかや聞くような国ばかりだったような気がする。“セネガル”なんて、今まで口に出したコトなんて生きてきて、一体何回あるだろう、一度もないような気がする…。


 そんなこんなと色々な事をぼけーっと考えながら、事故ることなく家に帰り着き、テレビでやっているハイライト番組を見て直ぐに気が付いた。


「席が余裕で空いている…。開幕戦やのに席が空いている…」。


 ワールドカップが始まる何週間も前、韓国サッカー協会と繋がりのある知り合いが「韓国に行くんだ」と私に言っていた。その頃は『韓国にワールドカップを見に行く』なんて考えてもいなかった頃だったので、冗談で「開幕戦のチケット、韓国サッカー協会に知り合いがいるなら、手に入りませんかね〜」などとダメモトで言ってみたトコロ、予想通り 「あかん、あかん、開幕戦は世界中から見に来る試合なんやから、取れるわけないやろ」と、あっさり言われていた。


 「そうですよね〜」と、馬鹿な返事をしながら質問を恥じていたあの頃の会話は一体なんだったんだろう。世界中が注目している筈の観客席の状態はなんだったんだろう。テレビでなんにも言わなかったけれど、明らかに席が空いている。訳がわからなくなってしまっていた。

 インターネットを開くと、完売したと思われていた開幕戦に空席が出た事について、FIFA (国際サッカー連盟) が調査するという速報が掲載されていた…。


 「開幕戦見た〜?」

 「すごかったよな〜」なんて話で盛り上がり「こうなったら、韓国まで見に行こうか?」っていう話に落ち着くまでの時間は、まったく、あっという間だった。“観戦をしに韓国まで行く”と、決まってしまうと不思議なもので、即席麺を食べまくり、何年も会っていない祖母の生年月日を聞きにいったりした時には「どんな試合でもいい、ワールドカップを生で見たい」 なんて思っていたコトなど「韓国で行われる試合は“どんな試合でも見られます”」と掲載されていて、んでもって、その中から好きな試合を見に行くコトが決定した頃にはあっさりと消え失せていて、空席情報と試合日程が記されている雑誌を見比べながら「う〜ん、これは好カードだけど、スタジアムがサッカー専用じゃないのか〜」とか「こっちのはスタジアムはいいけれど、地味な試合臭いな〜」などなど、勝手なことばかり言ってしまうもので、なかなか見たい試合が選べない。


 迷っているうちに、毎度バカな事ながら「まず、韓国に行くコト」を考えなければならないことに気が付いた(つづく)。



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