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| ■ワールドカップ観戦記 |
| 梅原 幹正 |
No5
名刺には「○○旅行株式会社○○ ○○」と、“偉そう”に書いてあった。 それを見て私はキレた。目の前にいる彼が何か言い出す前にまくし立てた。滅多に怒らないのに、この時だけは文句を並べ立てた。前回記したように、日本でチケットについての電話をかけるや「私達は“出版社経由”で回ってきたチケットを販売しておりますから、あの旅行会社が起こしたトラブルとは全く関係ないのです」と明るく元気はつらつ返してきたのは、この日から数えてたった“3日前”話だったのだ。なのに、目の前にいる男は旅行会社の名刺を差し出した。キレない方がおかしい。なんと言ったかは思い出したくはないが…。 文句を繰り返しても四十男は「何も判らない」としか言わなかった。当然だ、旅行会社の人間が出版社から回って来る筈のチケットについて何か判るワケが無い。さらになにやかや言ったと思うが、何を言っても結局ムダだった…。隣の強面も殴りかかるような事はしなかった。 その後行なわれた抽選会でチケットが当選した私は、なんとか試合を見ることが出来た。しかし、一緒にフランスへ行った友人Aは落選し、ひとりナント市が設けたパブリックビューイングへ行った。私が受け取ったチケットには「アルゼンチンFC」と、購入者名が記されていた。試合中に左隣を見ると、男が一人、メモを取りながら試合を観戦していた。右隣のおじさんが「アルゼンチンの偵察舞台ですよ」と言った。アルゼンチンサッカー協会と、購入社名が銘記されていた私がゲットしたチケットは、日本―クロアチア戦にアルゼンチンサッカー協会が送り込むはずだった“偵察部隊”のチケットを日本の旅行会社が“横流し”により、手に入れた“モノ”だったのだ。予選グループH組の初戦で日本を破ったアルゼンチンは、次の相手が最弱と見られていたジャマイカだったので、予選グループ突破は楽々と考えていたのだろう。だから、偵察舞台のチケットを譲るという、余裕綽々な事をしたのかも知れない。 私にはもはや何も言う事は無かった…。 …「なんだ、結局チケット手に入れて、試合を観戦出来たのなら、ラッキーだったんじゃないですか」と、Tさんに言われた。 確かにそうだ。私はなんだかんだ言いながらもチケットを手に入れて観戦した。チケットが手に入るやそれまでの怒りも、一緒に行ったヤツが当選できなくて観戦を諦めたコトも“み〜んな”忘れて試合にのめりこんでいた。 アルゼンチンサッカー協会は信じられない程ピッチに近い席を確保していた。伸ばせば選手に手が届きそうな席で試合を観戦したのは、あの仏W杯予選リーグH組、日本―クロアチア戦以来一度もないし、これからもそうはないと思う。ゲームも十二分に楽しかった。なんだかんだと言う人がいたけれど満足した。負けちゃったけどね…。 …「そうやって、怒りがあっさり収まったりするから、また同じ事が起こるんじゃないですか」と、付け加えられた。 そうかもしれない。『騙されていた』という枠の中から零れ落ちたチケットを確保出来た私の様な人達が“試合を観戦出来たから”と文句を言わなかったから、試合を観戦できなかった人達がしつこく文句を言わなかったから、チケットを問題は起こってしまったのかもしれない。 98仏大会、日本がクロアチアに敗れ、グループリーグ敗退が決定的になった試合が終わった後、例のホテルで落ち合ったAが「どうだった」みたいなこと私に聞いた。 「アルゼンチンの偵察部隊が一人でメモをとっていた」と言うと、不思議そうに笑った。 彼の笑い声を聞きながら「この責任はいったい誰がとるんだろう」「生で観戦するため“地球を半周”したのに、テレビで見るしかなかった人達は、何を思ってもう半周するんだろう」と、思った…。 そう、思っただけだった…。 あの後試合を観戦出来なかった人の何人かが、旅行会社を相手取って裁判を起こしたという話を聞いた。その裁判はどういうカタチで決着したんだろう。あんな事が二度と起こらないようにと信じて裁判を起したであろう人達は、カタチを変えてまたしても起こってしまったチケット問題を、どう思って見ていたんだろう。 …「あしたは日本戦ですよね」 何も言わない私にTさんは話題を変えた。 あれから4年経ったのだ。月日の流れはやっぱり速い…(つづく)。 |
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