ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No9
 さて、『チケットの購入、代行致します』と記されてますよと、昨晩Tさんから聞いた会社は、AM10時から電話を受付けると記されてあるという。

 チケットゲットなるかもしれないという興奮状態により寝付けず、結局“徹夜”してしまったおかげで出来上がった、昨日(02年6月4日)、W杯出場5回目にして初の勝利を挙げた韓国代表カラーと同じ“赤い目”を擦りながら、10時丁度に早速電話をしてみた。

 何回かのコールの後に出たのは“綺麗な声”した女の子。

「もしもし、朝早くからすいません。○○○という旅行雑誌に掲載されている『チケット取得の代行致します』という御社の『広告』を見つけて (見つけたのは私じゃないけど…)電話させて
もらったんですが、韓国で6月29日に行なわれる三位決定戦のチケットも、そちらで取得をして頂けるんでしょうか」 と、徹夜明けで高くなっているテンションを下げられぬまま、早口と、いつもより少しばかりかの大声でかくの如く切り出した。先方、私の大声に少々引いてしまったようで、私の質問に返答する前、こちらのテンションに負けないようにと思ったのかどうかは知らないが、大きく息を、気合を入れるように吸い込で

「ハイ!!、韓国は大邱で6月29日に行なわれる三位決定戦ですね。直にでも、御取り出来ますよ!」 と、明るく元気良く応てきた。

 この電話で喋るにはちょっと声が大きい返答を聞いた瞬間、薬球頭上で大きく割れて『チケットゲットなりました!!おめでとう〜』の垂れ幕降りて、鳩飛び回り、紙吹雪が宙(そら)を舞う。

 信じられない。こんなにもあっさりチケットゲット出来てイイんだろうか?イイでしょう!!。

 『チケットゲットなるのハイテンション』は『徹夜明けのハイテンション脳』と混ざり合い、チケットが欲しい欲しいと家宝(ジダンが地団駄人形)のボタンを、ジメジメ梅雨が迫り来る中押しては、地団駄させ、スタジアムの空いている席を見つけてはFIFAとバイロム社を罵るなどしていた日々の中に溶解し「買います、幾らですか、2枚お願いします」と受話器に向って一気呵成に叫ぶ行為へと私の思考を押し流した。

 昨夜Tさんに「おたく、4年前騙されてるでしょ」と忠告され、非常に怪しいと睨んでいるようである彼に「騙され慣れている俺が電話するよ」と『大丈夫、おれにまかせろ』みたいな宣言をした後「電話する時は4年前みたいに騙されないように、あれやこれやと質問しなければ」と考えていた事など、一気呵成に流れ出た即決の前には、情けないけれども、濁流の前の枯れ木に同じであった。

 先方は「了解しました」となんかヘンな科白回し(普通は『判りました』でしょう)から始まり、次に、

「カテゴリーはどちらになされますでしょうか」と聞いてきた。

「カテゴリーですか…」 しまった、ちょっと焦る。

 カテゴリーの意味はもちろん知っている。それは座席のレベルを指し、@ABとある。@が最も高額で、Bが最も安い。当然@が最も良い席でBが最低の席。席のレベルは、その場所に因るようで、カテゴリー@はピッチ上のポイントで言うトコロのセンターサークルの位置、要するに真中部分の座席となる。逆にBの場合はコーナーフラッグの後ろ辺りとなる。だから、カテゴリー@の座席でも買うのが遅いと、試合全体を十二分に俯瞰出来るセンターサークル付近ではあるのだけれど、スタジアムの最頂部分となり、ピッチとの距離が非常に遠い席いなってしまう。

 これらの事は、チケット問題が起こる前、チケット販売サイトにホイホイアクセス出来た、古き良き昨日一昨日(02年6月5日から数えて)に、調べてみて知った事であったのだが、その時でもさすがに開幕後であったため、カテゴリー@でも最頂部分の席になるようで、電話で先方からカテゴリーについて質問された時、私は中々観戦出来ないW杯なんだからと、カテゴリー@を選択しようと思ったのだが、さすがに学生であるTさんに確かめもせず、このピッチから遥かに離れたカテゴリー@を選択するわけにも行かない。
 
…聞くところによると、カテゴリー@よりも更にピッチに近い席があって、そこは相撲の桝席の様に“食事やお土産”までついているという。そんな席って一体どこに売っていて、どういうふうに買えばいいのか。それは今日まで知ることはない…。


「そうですね、カテゴリーはまだ決めていませんでした」と言いながら、 急激にテンションが下がっていった。テンションが下がるにつれ、冷静さを取り戻せて来た私は、昨晩から決めていたコトをひとつひとつ尋ねようと、先程、私のテンション高い大声に負けない様にと大きく息を吸い込んだ相手方と同じようにだけれども、私の場合は気持ちを落ち着けようとする意義を込めて、大きく息を吸いみ、

「あの〜、カテゴリーについては、まだ相談していなかったんで、少し待ってもらえますか」と、切り出しただけなのに、早く電話を切りたいのか、先方「ハイハイ判りました。では、お決めになられましたら今一度お電話頂けますでしょうか。ではそういう事で失礼します」と、すぐにも受話器を置こうとした。

 受話器を置こうとする相手の手を引き止めるために「ちょっと、待って下さい」と叫び、続けて、
「そちらは一体、何処からチケットを手に入れるおつもりなんでしょうか」と、商談をするような気持ちで言った。ここで、ちゃんとした答えを聞かないと4年前の“二の舞”になる。電話向こうの彼女の声を、“全身嘘発見器”になったつもりで聞かんと身構えた。受け付ける女の子の声がとっても綺麗だというのもどこかしら怪しい。怪しいトコロ程、イメージにやたらと気を配るという事は、最近TVに溢れている消費者金融のコマーシャルで実証済み。なんだかんだ言っても4年の歳月過ごしてきた私が、そう“あっさり”騙されるワケにはいかない。

…綺麗な声は言った。

「ハイ、インターネット上にチケット販売サイトがありまして、そこへアクセスしまして、確保するんですね」と…。

 絶句した。チケット販売サイトだって…。あの繋がらない繋がらないと騒ぎまくっているサイトからだって…。

 昨日の夜からチケットゲットなるかもと一晩中起きていて、この業者の受付開始時間である朝10時に早速電話したトコロ、出た綺麗な女の子の声に導かれるように、一気にチケットゲットなると思っていたのに、4年前の事もあるからと、騙されないようにと確認すれば、誰でも、私でもとれる方法でやると言う。繰り返すが、雑誌に広告出している会社が、である。徹夜明けの頭が“脱力感”に襲われる。

 しかし、ココで脱力してしまうわけにはいかない。ここで脱力したら、そのまま力尽きて寝てしまい、14時から始まる仕事に遅れてしまう。

 残ったパワーをかき集め「あのう、チケット販売サイトって、繋がりませんよね〜。確か…」と言うと、先方は「えっ、そうなんですか、私共、全然知りませんでした」と、こちらの瞼をつもりなのか、呑気な科白を続けてくれた。人間、疲れ切ってどうしようもないけれど、それでも頑張らなければならない時、怒れば、それでまた新たなパワーが生れてくると言う事を聞いたコトがある。そういう風に“怒りたい”のは、ヤマヤマだけど、しかし、それじゃあどうしようもないと

「はい、確かにそうですよ。調べてみてもらえます」と、それでも怒り気味に言った。

 先方明るく元気良く、

「それでは、私はネットが繋がるかどうか調べます。そちら様は望まれるカテゴリーを同行者の方とお決めになって下さい。お電話お待ちしています」と、言った。

「はい…」

頷くしかなかった。
 電話は切られた。ケイタイの切りボタンを押したら、一cの気力も残っていなかった。だから、そのまま寝てしまい、目が覚めたのは14時を“少し回った”頃だった…(つづく)。

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