ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No11
 さて、リダイヤルを繰出している。が、先日(6月5日)よりもはるかにテンションが低い。しかしそれもまあ当然であって、昨日は、遂にW杯のチケットが手に入るかもしれないという期待で高くなったテンションを下げられぬまま、眠る事が出来ず、結局なった徹夜のため、かなりのハイテンションを有していたのだが、この6月6日の朝はしっかり寝ておいたため、徹夜明けのあの異様なテンションはない。逆に寝過ぎだろうか、なんだかだるかった。
 この日の電話は、言ってみれば、あのパンク状態に陥っているインターネットにアクセスして確保したチケットを売るつもりで広告を出していたメチャクチャな会社が「何度もアクセスしたのですが、結局ネットには繋がらない様ですので、当社でチケットを確保する事は不可能です。お客様にお手数をかけさせてしまいました事をお詫び致します」みたいな科白を吐くのを聞くためだけにかけるのであると思っていたから、チケットゲットなるかもという期待は全くなかった。
 ただ、先方が「カテゴリーを決めてから、 再度電話して欲しい」 と言って来た時「ハイ」と答えたためだけに電話するのであって、つまり、めんどくさいが、約束したからには電話をしなければならないという義務感だけが、この朝の私にはあった。
 それでも、どうにかこうにか、相当に重くなっている頭を上げ、ケイタイのリダイヤルを繰出すに至らしめたのは、そういう義務感だけではなく、昨日電話をかけた時に出た、あのキレイナ声をもう一回聞きたかったという理由も、いまから考えると、どうやら含まれていたらしい…。


「はいもしもし、○○社です」
 と、何回目かのコールの後に出たのは、あのキレイナ声でなく、かなり年配だなと思える男のドラ声だった。
「あれれ」と、言葉に詰まる私を無視してドラ声は 「もしもしどなたですか」
 と、早速イラつき始めたかのように喚き出した。私は「もうどうでもいいや」と、やる気なさそうに「W杯の三位決定戦のチケットをそちらで確保して頂こうと、先日電話をさせていただいた者なんですが、昨日電話に出られた方に、私が決めていなかったカテゴリーを決めてから、再度電話して欲しいと言われたので、カテゴリーを決めたから、電話させてもらっているんですが…」と、言うと、ドラ声は「あ〜、ハイハイ、実は当社はですね、インターネットで確保したチケットをお客様に提供する事を考えていたんですが、そちらご存知ですかね〜」と逆に質問してきた。
「はい、何のコトですか」と、何を言い出すのかも判らぬまま構えてみれば、ドラ声「今チケット問題が起こっていましてね、インターネットが全く繋がらない状態なんですよ」と“何も知らない馬鹿者に教えてやる”みたいな口調で言ってきた。

 さて、こういうコトを言われた私は、一体なんと返せば良いのだろうか。


 ――整理してみる。

@昨日(6月5日)「チケット取得を代行して欲しい」と、このキレイな声を持つ女の子とドラ声を持つ年
 配だなと思われる男の二人が社員として勤務する会社へ電話したトコロ、キレイな声を持つ方は、イ
 ンターネットでチケットを確保するこの会社の生業を説明した後、私が、インターネット上にあるチケッ
 ト販売サイトは繋がんないですよねと言った時「私ども、その事を全然知りませんでした」とのたまい、
 それを確認してみますねと電話を切った。


A本日(6月6日)電話してみると、ドラ声を持つ年配だなと思われる男は「チケット問題が起こっていま
 して、当社でもインターネットでチケットを確保できない状態なんですよ」と、私を馬鹿者扱いするみた
 いに言った。


 さて、皆さんならどうされますでしょうか。キレられて、そのままケイタイを切られる方がほとんどではないでしょうか。最後に「バカ!、ふざけんな!!」と叫んでケイタイを切られる方がいても、私は仕方のないコトだと思います。
 こんなアホな会社にしつこく電話するアンタが馬鹿ですと、私に反省を促す方がおられるかもしれません。


 それでもどうしてもチケットが欲しい私は「すいませんけど〜」と、もちろん私も怒り気味に切り出し、続けて、

「私が昨日、そちらさんのチケット取得の方法について説明を受けた後『ネットは繋がりませんよね』と言いましたら、そちらさん『そうですか、では、調べてみます』とおっしゃいましたよね〜」と、昨日のキレイな声と今日のドラ声間の伝達不備を暗に指摘するつもりで言いました。するとドラ声は「ああ、そうでしたか、それは失礼しました」と、呑気に返答してくれましたので、遂に私も「バカ!、ふざけんな!!」とケイタイを切ろうとしたのですが、私がケイタイを切るその寸前、ドラ声を持つ男は、自慢の(?)ドラ声を潜め、今度は実に落ちついた科白回しで、


「実はですね、私達大阪支店のものなんですが、東京本社でですね、今W杯のスポンサーを務める、韓国の航空会社が有する三位決定戦のチケットを、何枚か所有していましてですね、それを提供することが出来るんですけど、如何でしょうか」と言った。


 繰り返すが、この電話をかける前、私はこの会社からチケットを購入する事を、半ば、いや、完璧に諦めていた。そして、この6日の電話のやりとりから浮かび上がったキレイな声とドラ声間の伝達不備から、この会社がマヌケであるばかりではなく社員同志もそれほどイイ関係を保っていないようだと気付かされていて、それはだるい頭を更にだるくさせており、キレてそのまま電話も切ろうかというまでに私を追い込んでいたのだが「実はですね…」と切り出され、なんなんだと思えば、それは、チケットを所有しているという話だったのだ。
 こういう時はどう言えば良いのだろうか。昨日みたいに「買います!いくらですか!!」と“即決”すべきなんだろうか。
 昨年の5月か6月、日本があのアフリカの強豪カメルーンを破り、堂々準優勝したコンフィデレーションカップの頃からだろうか、何時頃からかなんて忘れてしまった程に遠い昔から延々チケットゲットの挑戦を続けてきた頭の中がグルグル回る。
 返答に窮した。が、何かを言わなければならない。
「そのチケットのカテゴリーはどちらになるのでしょうか」と、とりあえずはカテゴリーについて訪ねてみると、それは@だと言う。私は時間稼ぎのためだけにそれを聞いたのだが、先方は即座に@だと言った。迷う私に気付いたのか、
「どうです、ここは即答されず、共に行く方と御相談されてからになされては」と言い、続けて
「この、所謂スポンサー枠のチケットを購入されましても、お客様のお名前が入らないんで、記念にならないと敬遠される方もおりますからな〜、わっはっは〜」と、ドラ声を復活させるや大笑いし、さらには「確かこのチケット、スポンサー席だけに、かなり見やすい位置のハズですからね〜、検討しがいありますよ〜」と、笑い声のトーンを一段上げて、余計な事まで喚いてみせた。
「はい…」
 昨日と同様、頷くしかなかった。電話は切られた。付けっぱなしのTVは昼のニュースを流していた。
「FIFAは腐っている」

 何処かの知事がこの何日か前に記者会見で喚いた科白がこの日も繰り返されていた…(つづく)。

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