ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No13
 さて、6月7日朝、チケット電話販売受付時間までの間に、昨日(6月6日)録画しておいた1日の試合をダイジェストで放映している番組を見た。1日、ドイツに大敗したサウジアラビアは、来日した王様の御前で、カメルーン相手に見事な接戦を演じてみせたが、結局敗れた。2年前のアジアカップ決勝で日本を苦しめた背番号18のナワフ=アルテミアト選手は、幾度と無く惜しいシュートを放ち、カメルーンゴールを脅かしていた
が、アジアカップ決勝で日本と対戦した時と同じように、一つのゴールゲットもならぬまま、参加32カ国中、最初に離日するチームとなってしまった。おんなじアジアで、アジアカップ決勝での対戦ぶりから、きっと日本とおんなじくらいの実力を持っているんじゃないかなと思っていたチームが、奮闘したものの、結局敗れた事に、これから、ロシアやチュニジアと闘う日本は大丈夫なんだろうかと、大いなる不安を覚えた。

 サウジの王様は来日してすぐに、統治している国が予選敗退していく様を見ることになるとは、お気の毒。
 王様が来日されたということは、色々報道されていたけれど、結局、彼は何時まで滞在したんだろう。他の国の試合とかも観戦されたのかしら。観戦されたとすれば、きっと良い部屋に泊まって、良い席で観戦出来たんだろう。羨ましい限り。それとも、王様は自国がおしまいになったから、もはや帰るしかないとあっさりと帰ったんだろうか。実は心配りの良く効いた人で、チケット問題で揺れているこの国のさまに同情されて、チケットを誰かに譲っていたりして。アホな想像だけど、もしそうなら、残っている滞在期間を利用して、のんびり観光していたのかもしれない。ありえないかな。でも「絶対に無い」とは言い切れないと思う。ヨーロッパやアフリカで活躍する選手にしてもそうだが、彼等が再び日本まで来るという事は、なかなかに無い事だろう。だから「W杯に来たけど、休みの時にはちょこっと」と、観光していたかもしれない。
 ここ洛南地方は有名な観光地である京都や奈良にも近いから、案外、何処かで誰かとすれ違っていたりして…。
「今更何を言っても」だけれど、こういうアホな想像が許されるのもW杯ならではだと思う。オリンピックで、世界の一流どころが来るかもと期待しても、それは例えば、長野オリンピックを思いだしたら判ると思うが、開催都市の長野以外ではTVで見ているだけの大会で、たまに映る観客席に日本人が多いから、日本でやってんだというぐらいの実感しか持てなかったのだが、W杯は違った。例えば、奈良県橿原市にはチュニジア代表チームがキャンプを張っていた。それなら「練習が休みの日には奈良を観光していたかも」と、想像してみるのはとっても楽しいことだと思う。オリンピック選手が1人2人で観光していても誰も気付かないと思うが、1チーム23人がゾロゾロと奈良公園を歩いていたら、直にでも判ってしまうハズ。修学旅行シーズンや駅伝が開催される頃に京都駅を歩いてみれば、おんなじ服を着てぞろぞろ歩いている学生達を見る事が出来るが、あんな感じで選手が歩いていたとなると「実に面白い光景だったんだろうなあ〜」と、思える。
 サウジの王様が、あのイスラムの民族衣装で、平等院や宇治橋通りを歩いていたのかもと思うと、それだけで、ココロにシャボン玉が浮かんで来るような気になる。


それはチケット問題を思い出す度に、壊れてしまうモノなのだが…。


 そのサウジアラビアに引導を渡したカメルーンといえば、中津江村という大分県にある小さな村がすぐに思い出される。カメルーンチームは村に到着するのが遅れに遅れた。ちょうど、チケット問題で憤激してしまっていた頃であったから、いつ来るのかという騒動は、一服の清涼飲料水の様な、実に微笑ましい光景だったのだが、到着が遅れたのは、W杯の出場を果たした事によりもらえるハズだったボーナスの額をいくらにするかでもめていたのが理由だったというのは未だに信じられない。
 カメルーンが予選敗退した時、このチームの監督は「もっと早く来れば良かった…」と嘆いていたそうだ。そう言えば、W杯本大会の一年前に日本で開催されたコンフェデレーションズカップでも、カメルーンは開催前日にしか来なかった筈だ。あの時もボーナスの額でもめていたんだろうか。彼等は時差ボケと準備不足のまま“準備万端”の日本と対戦し、敗れ、帰国した。チームのエースであるエムボマ選手は、その後Jリーグの外国人と日本人が対戦する試合の外国人側のゲストとして呼ばれ、コンフェデレーションズカップの“仕返し”のような活躍をしてみせた。

 私は、コンフェデ杯と違ってW杯は世界最高の大会だから「ガンバルダロウ」と単純に思っていたので、カメルーン選手のわがままぶりに「おまえら、W杯に出場する事が嬉しくなかったのか」と言いたくなるような、信じられない気分を持っていたのだが、今、冷静になって考えてみると“スポーツに対する考え方が違うという事かもしれないな”と思えてきた。彼等はプロで、お金のために、仕事としてやってんだから、正当な権利として大金を要求しているだけだったのかもしれない。そうなると、Jリーグのお祭りにゲストとして呼ばれた時は、スポンサー辺りから“ものすごい額”のお金をもらったんで『ガンバリマシタ』っていうコトになるんだろうか。
 調べた所によると、カメルーン人一人当たりのGNPは610$(98年)で、日本の50分の1(日本は32350$=同年=)。


 物価も同じだけの差があるとしたら…。


 そんな事を考えながら、この日の出来事を思い出したり調べてみた結果、ある一人のサポーターの行動から 「日本は世界の水準から見れば、異様に金持なんだよな〜」 という当たり前の事が、いつも以上に実感出来た。
 その人は北海道は札幌市在住で、私が早々に諦めていたネットに4時間近くもアクセスして、グループリーグ最高の試合になると予想されていた北海道は札幌市で行われるイングランド対アルゼンチンの試合のチケットを、この6月7日の朝、手に入れた。
「期待度が異常に高い、この試合のチケットまで余っていたのか」 という当時あった私の怒りは置いておく。
 
 この人は、チケットゲットなったものの、札幌市内の何処でチケットを受け取れるのかが判らず、やむを得ず、飛行機で東京まで行き、チケットゲットを果たしたらしい。彼は、チケットゲットなるや、再び札幌まで戻り試合を観戦した。彼のように、札幌―東京を飛行機で往復する費用は手元の時刻表でざっと計算しただけでも5万円(約400$)以上かかる。
 この試合の決勝点となったベッカム選手(ちなみに彼の年俸は約1000万ドル=推定=)のPKを、この札幌在住のサポーターはどんな思いで見ていたんだろう…。

 カメルーンの主力選手はベッカム選手程ではないにせよ、ヨーロッパで大金を手にしている。サッカー協会が提示したボーナスは、カメルーン国内の経済状況からはじき出された額であったと考えると、海外で活躍する一流選手と一般のカメルーン人との“金銭感覚の差”がボーナスでもめた理由になるといえるかもしれない。私は10数年前、世界中を周りながら試合を繰り返しているF1チームのひとつが、日本は鈴鹿でのレースに出場する時、輸送費用を捻出出来ないからと、何のパーツか忘れたが、予備のパーツを持ってこれなかったという話があったのを記憶している。これと同じように、カメルーンサッカー協会は、日本に来るだけで精一杯だったのかもしれない。
 カメルーンの人達は、チケット問題や、それに翻弄される私達を、どんな思いで見つめていたんだろう…。
 来日早々自国の敗退を見届けることになってしまった“お気の毒”なサウジアラビアの王様は、気を取り直して、この世界中が注目する試合を楽しんでいたんだろうか、イイ席で…。
 この日、電話をかけてみたものの、結局私はチケットゲットならなかった。NTTには電話販売受付時間に電話をかけられないと、W杯に興味が無い人達からの抗議の電話だけで、9万件もあったらしい…(つづく)。

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