ワールドカップ観戦記
梅原 幹正

No15
 さて、日本がロシアと横浜で対戦し、W杯出場二度目にして成し遂げた初勝利の日は6月9日で、それは日曜日だった。ありがたいことに、日曜日が休みである会社に勤めている私は、この試合をゆっくりと楽しむことが出来た。残念ながらTV観戦になってしまったが…。
 生で観戦できるチャンスがあったのに、電話が繋がらないせいで、残念ながらと書かなければならないのが今もって悔しいように、今大会は日本でやっているおかげで、あたりまえのことだが、時差がなかったので、社会人である私が
試合の生中継をTVで見る事が出来ないという悔しさもあった。  たとえば、前回書いたイタリアとクロアチアの試合もそうだった。98仏大会を現地で観戦したせいで、思い入れを持っていたクロアチアが、優勝候補の一角であるイタリアを破ったプレーを、電話をかけても繋がらなかった上、TVでも生で見られなかったというのは非常に悔しかった…。
 スポーツを観戦する最大の理由は、自分が応援しているチームが勝つか負けるかというトコロニ最大の楽しみがあるからというのに異論をはさむ人はいないだろう。だから、相手を負かす得点がいつ入るのかという期待と、自分たちのチームを負かす得点が入らないようにと祈る事が、プレーに目を釘付けにする、つまり面白い理由であるのに、結果が判ってしまっていればこれほどつまんない事はない。そう思うから、生で試合を見られないと悔しい思いをしていた今大会と違い、仏大会は日本の反対側で行われていたため時差が存在し、試合の生中継は深夜に行われていた。だから、仕事を終えて家に帰り、観戦する気さえあれば、全試合を充分に観戦することが出来た。
 今『全試合』と書いたが、まさに全試合で、TVは全64試合の全てを中継していた。が、今大会はそうではなく、TVで中継しない試合もあった。こんなことを書いていると“わがまま”と言われてしまうかもしれないが、もうちょっと…。


 6月5日、優勝候補の一角であったポルトガルがアメリカに負けるという波乱があった。
 この試合は、韓国の水原という都市で行われ、キックオフは18時からだった。この不況下「18時には家に帰ってゆっくり試合を観戦したよ」という人は、仕事の真っ最中であった私と同じように、少なかったに違いない。きっと多くの人がこの波乱をダイジェスト番組でしか知る事が出来なかったと思う。
“さらりーまんはつらいね”

 先に「結果が判っていれば90分間試合を観戦してもつまんない」と書いたが、このポルトガルとアメリカの試合ばかりは、ダイジェストを見ただけで、全90分を見たくなるようなゲームだった。ポルトガル代表で10番を背負うルイコスタ選手は、アメリカの選手3人に囲まれたものの、そのすべてをかわしてみせた。スローモーションで見ても、彼がどういう技術で3人をかわしてみせたのか、私には判らなかった。もちろんダイジェストだからいい所ばかり繋げているのではあろうが、きっとこういうプレーが多かったんだろうなと期待される選手がいたポルトガルを破ったアメリカのプレーはどうだったんだろうと思うと、生中継を見る事が出来なかったのが悔しくて仕方がない。


 TV中継があったならばだが…。


 そう、この試合はTV中継されていなかった。これほどの試合がと、後から言っても仕方ないが、どうしてTV中継されなかったのだろう。4年前は全試合TV中継されたのに、なんで今回はされなかったんだろうと疑問に思い調べてみると“放映権の高騰”という問題にぶち当たった。W杯に限らず、オリンピックでも、どんな大会でも、生中継を放映したいTV局は、放映する権利=放映権=をその競技主催者団体から買わなければならないのだが、この放映権料が膨大なものだった。
 W杯の主催者団体であるFIFAから、この権利を最初に落札したのは、ドイツのキルヒとスイスのスポリスという会社で、その価格は1040億円というわけのわからない価格だった。しかもメディア王国であるアメリカでの放映権は含まれていない(実際は今大会と次回独大会をセットで落札=合計2240億円=されたのだが、ここでは2002大会のみの額で進めることにします)。キルヒ社とスポリス社は、いわば競技主催者団体であるFIFAと各国メディアの仲介者の役割を担わされていたようで、各国TV局は、この2社から放映権を購入する仕組みになっていた。

 日本は98仏杯を全試合放送していたNHKと民法が合同で放映権を購入するつもりでいたらしいが、250億円という、目の玉が飛び出てしまいそうな額を要求された。
 この無茶苦茶な提案をしたキルヒ社は、W杯の他にも、F1の放映権を落札したり、ドイツの国内リーグ=ブンデスリーガ=の放映権を4年で1700億円という膨大な額で落札する等の放漫な経営を続けた結果、7500億円を超える、天文学的な負債をかかえて倒産してしまった。ブンデスリーガはこの破綻によって入って来なくなった放映権料のおかげで、収入の80%近くが消えてしまうチームも現れ、一時はリーグ崩壊寸前にまで追い込まれていた。リーグ崩壊を防ぐため、日本が銀行の不良債権を何とかしようと公的資金を注入したように、ドイツ政府はブンデスリーガへの公的資金注入が検討されたらしい…。


 この会社が倒産したおかげで、一時“W杯はTVでは見られないのでは”と言われていた。私もその事は新聞で読んで知っていたのだが、これ程の事態と金額が動いているとは知らなかった。

 TVでW杯が視聴出来ないかもしれなかったというのは「そんな馬鹿な」と、思ってしまうような話であるが、べらぼうな放映権料について調べていると、スイス(W杯に出場していない)は18億円の放映権料を提示されたものの、これを払えないからと、2002年W杯の放映権購入を断念したという新聞記事を見つけた。さらには各国でこういう事態であったため「ガラガラになるであろう記者席を売ろうか」という笑えない話まであったコトを知った。日本では民法各局とNHKが共同出資した会社が、キルヒの後を継いだFIFAマーケティングと値段の交渉をしたおかげで、70億円で購入されたので、とりあえずTV中継はあったのだが、この値段では、全64試合の内、40試合分の放映権しか得ることが出来なかった。


 先のポルトガルとアメリカの試合は、購入された40試合には含まれていなかったため、我々はこの試合を観戦できなかったのだ。

 さらに調べてみると、NHKが全試合を放送出来た98仏大会の放映権料は、たったでもないが、今大会の40試合分の放映権料70億円に比べたらたったの6億円だった。この4年で10倍以上に膨れ上がった事になる。

 放映権料が膨れ上がった原因は、有料放送を行うTV局が次々と開設されたためらしく、日本でも全試合の放映権を購入したのは有料放送の会社だった、その額130億。FIFAから仲介という形で放映権を購入して、倒産した先のキルヒ社も有料放送の大手だった。

 放映権料収入がスポーツイベントの競技進行に必要な予算の大半を占めているコト、つまりはこれが入らないと、競技進行さえもままならないという事が、調べている過程でよく判った。それは、ブンデスリーガに収入の80%を放映権料で占めるチームがある事からも判るし、W杯と並ぶ世界的スポーツイベントであるオリンピックの主催団体であるIOCが得る収入の50%がアメリカのTV局が支払う放映権料によるという事からも判った (今年のイタリアセリエA開幕が遅れたのも、放映権料でもめていたから…)。

 私はこの事実を知った時、そういえば長野オリンピックで提示された高額な放映権料を支払えないからと、購入を断念した発展途上国があったのを、何処かで読んだ事を思い出した。
 これに関連して、もう思い出したくもなかった事が、W杯期間中、国会議員の誰だったかが、海外への支援行為にかこつけた収賄容疑で追求されていた事まで思い出してしまった。確か収賄を行っていたのは、日本が6月9日日曜日、W杯初勝利を収めたロシアへの支援行為にかこつけての事ではなかっただろうか、調べてみたくもないが…。



 結局、40試合しかTV観戦出来なかった日本と違い、イギリスでは『公共性のある番組は貧富の差に関係なく、視聴する権利がある』として、有料放送を生業とする会社の拡大に歯止めをかける“ユニバーサルアクセス権”という法律が整備されていて、イギリス国民はその法律のおかげで、全64試合を普通に観戦出来ていたというコトも知れた。



 「FIFAは腐っている」と、何処かの政治家が喚いていたが「そんな事を喚いてる暇や、中途半端な利権稼ぎに勤しむ暇があったら、まともにW杯を観戦出来る環境くらい整えられんのか」と“さらりーまん”故に試合を生で観戦出来ないと“わがまま”喚いているうちに、そんな事まで喚いてしまう事になるとは、予想だにしていなかった…(つづく)。

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